建築物探訪ブログ

旅行先で訪れた著名な建築物を紹介するブログです。

北塩原村役場 ~自然の中の都市~

福島県北塩原村裏磐梯といった観光地で知られ、夏には多くの観光客が、冬は多量の雪に埋もれる村は、人口2710人ほどが暮らしています。五色沼桧原湖といった景勝地を後ろに控え、会津若松市喜多方市といった町々を見下ろす小高い丘の上に目的の村役場はあります。

 

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この建物は、私が好きな建築家である谷口吉生氏による設計ということで足を運んだのでした。車で喜多方市から緩やかに坂道を登っていくと目的の村役場が見えてきます。すぐ近くには森が迫り、新緑の時期には萌える木々に見下ろす会津盆地には田畑がモザイクを描き出し、とても気持ちの良いものとなるでしょう。

 

建物自体は、役場機能とコミュニティセンターを複合しています。この建物が建築された1980年頃に国の過疎地域に対する補助事業としてコミュニティセンターは計画されました。そのため、建築主体が国と村となるため、建物自体が二分割されています。また、冬場は豪雪の見舞われる過酷な環境であることへの配慮として、雪溜まりをなくすように凹凸の少ない平面と陸屋根を基調としたものとなり、全体として直方体で平滑な姿となっています。

 

こちらの会津盆地に面した側の部分が役場機能、山側がコミュニティセンターとなっています。

 

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この建物は、自然豊かなこの場所においては、人口的であり、無機質であり、幾何学的であるように思えるかもしれません。この建築の意図としては、最初は、雄大な眺望や田園的な背景といったこの土地特有の風土を生かした伝統的な形態を含んだ建築としようとしていたそうです。しかし、設計者はこの土地に度々訪れ、地域の人と交流を重ねることによってその考えも変化していったということです。驚くような雪に埋もれた景色、新緑の風景もその土地に住む人々にとっては、日常のごくごく普通な日常的な構図、都市に住む人々にとっても高層ビルや人々の雑踏は身近なもので代わり映えしないものです。人工的な都市の中では自然が映えるように、美しい自然環境の中にそれと調和した都市的環境を配置することでより一層自然を際立たせる、といった意図があったということです。

 

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ホール内は、敷地が元から持つ高低差の変化に合わせて連続的に高さが変化しています。そして、円柱のコロネードとスカイライトによって、建物の中に都市と建築の間のような空間を演出しています。コミュニティセンターには小集会室、図書室、教室などがあり、この細長いホールが役場とコミュニティセンターを繋ぎ、長い冬を過ごす村民のための応接間になります。

 

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盆地へ向けた直線的な造形に水平連続窓、ハードな外装仕上げと、美しい自然と人工との対比、中々美しいものです。人工的ながらも簡素で禁欲的な造形がなせる技なのでしょうか。

 

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