横浜税関本関庁舎
横浜の赤レンガ倉庫や大さん橋周辺を歩いていると緑の帽子をかぶったような、緑青のドームを戴く塔屋が目に入ります。この建物は横浜税関本関庁舎、1934年の創建です。
1873年、初代税関庁舎が建設され、関東大震災の復興事業により建設された現在の庁舎は三代目となっています。このひときわ目に付くこの塔屋は高さ51メートル、イスラム風の出で立ちです。その姿はイスラム建築のモスクの象徴的なミナレットのようです。
横浜税関が建てられた1930年代頃は、吉田鉄郎による東京中央郵便局、山田守による東京逓信病院といった機能主義、合理主義を標榜する国際建築様式の建築が生み出されます。この動きは、この横浜税関のような様式建築にも影響を与えています。実際に翼を広げるような左右対称の平面計画は遵守されていますが、塔屋に一部の窓のアーチ、屋根の棟飾りといったワンポイントの装飾に留められ、従来のものに比べると保守的な様相です。
ワンポイントの装飾に話を移しますが、イスラム風とあって施される装飾も少々独特です。偶像崇拝が禁じられるイスラム教では、イスラム建築においても人間や動物の彫刻を用いた装飾は固く禁じられていました。そのため、幾何学、抽象的形態の模様が装飾として用いられたのでした。
税関に用いられる棟飾りは棕櫚の葉を抽象化した模様を用いています。
窓枠のオーダーは、柱身がねじり柱となっており、少々ジャコビアン様式を彷彿とさせます。
この建物は改修を加えながらも大部分の外観を当時のままとしつつ、保存されており、1階では横浜税関資料展示室として一般開放されています。