建築物探訪ブログ

旅行先で訪れた著名な建築物を紹介するブログです。

三井物産横浜支店~日本最初の全鉄筋コンクリート造の事務所建築~

 横浜公園から埠頭への日本大通りは、大都会のでありながら、落ち着いた、ゆったりとした時間が流れています。横浜地方裁判所日本銀行横浜支店とが建ち並ぶ中、銀杏並木の中にひっそりと姿を隠しているのが、三井物産横浜支店です。

 

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シンプルながら、どこか西洋風の風合いを持つこのビル、実は、日本で最初となる本格的な善鉄筋コンクリート造の事務所建築なのです。竣工年は1911年、遠藤於菟(おと)によって設計されました。遠藤於菟は日本の鉄筋コンクリートの先駆者の一人でした。

 

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1905年に於菟は独立し、自宅に事務所を構え、同年に処女作となる横浜銀行集会所が建てられます。この建物は於菟が鉄筋コンクリートを一部で実験的に使用した最初の建物となり、その後、三井物産横浜支店において、構造に鉄筋コンクリートの技術を用いた全鉄筋コンクリート造の建築が竣工します。

 

三井物産横浜支店の1番の特徴はそのシンプルな外観にあります。矩形の窓にその窓に挟まるようにして外壁に現れる柱、構造的、機能的な役割を果たす部位が直截建物の外形として現れているのです。

 

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西洋建築では、産業革命によって鉄骨などが構造に用いられるようになった時、構造体の設計は技師の仕事、その外側の装飾を施すのが建築家の仕事というように構造と装飾を分け、二元的に設計を行うという建築観を有していました。また、於菟の過去作、横浜銀行集会所では、構造と表面装飾は肌別れしたものとなっていました。

その後の近代モダニズム建築ではコンクリートの技術により、建築は表面装飾を脱ぎ去り、構造体が彫刻的な造形美を有するようになります。三井物産横浜支店はまだその段階へは届いていませんが、表面装飾を脱ぎ去り、メタモルフォーシスを遂げようとする瞬間であると言えます。

 

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デザイン的な特徴に、柱は1階から4階までを貫き、庇が周囲にせり出す、軒下の小壁(エンタブラチュア)をも貫き、軒にまで達しています。玄関周りや腰壁など装飾はありませんが、全体がルネッサンス的にまとめ上げられているのが特徴的です。於菟の研究者である堀勇良氏は「遠藤式ルネッサンス」と呼んでいます。

 

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現在、この建物は1階がギャラリー、そのほかは事務所として、実際に現役で使われています。日本最古の鉄筋コンクリート造の建築が今でもフルに使われていれ、今も変わらずそこに立ち続ける、それは於菟の技術力の高さ、利用する人々の意識の高さが建物を強固なものにしているのだと感じています。

 

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