相馬市LVMH子どもアートメゾン
私には福島県相馬市に住む友人がいるのですが、「うちに来ないか?」の誘いを受けいざ、相馬市へ。昔、家族と訪れ、しばしば釣りをしたものでした。一日粘ってようやく小さなメバル1匹。その1匹のメバルに大喜びた港や街は突如牙を向いた海によって様変わりしてしまいました。友人の運転で海辺を走りながら、当時の風景を思い起こします。その後、友人に頼み、とある場所へ。
相馬駅前、住宅街や倉庫など、雑然とした町並みを進むと少し開けた場所に楕円形の建物が見えてきます。そこには、相馬市LVMH子どもアートメゾン、プリツカー賞を受賞した坂茂さんによる設計の建物です。
LVMH(ルイ・ヴィトン、モエ・ヘネシー社)は、2011年東日本大震災後から被災地への支援活動に取り組んでおり、本施設は相馬市が土地を提供し、LVMHが建設資金を寄付したことにより建設されました。本施設自体は震災によってPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患った子どもたちの治療を目的としています。精神的な病のための治療施設となると自然に囲まれた、街からは離れた場所に建設されることが常であると思われますが、ここは市街地の只中。すぐ脇には線路に高架橋、住宅街に倉庫が立ち並ぶという状況になっていますが、周囲の環境から遊離させる様な工夫がなされています。
建物は楕円形のドーナツ状になっており、中央が中庭となっています。エントランス左手から建物に入ると、壁面が一面本棚となっており、絵本が並んでいます。その奥には階段があり、その上はロフトの様になっている読み聞かせスペース。こういう天井が低い狭い空間が子どもの頃は大好きでしたが、大人となった今でもときめいてしまいます。
楕円のドーナツに沿って進むとオープンキッチンとなっており、ガラス窓一面、野菜を育てるためのプランターが棚状になっており、外部の雑然とした風景を隠しつつ、室内に彩りを与えています。
坂茂さんは、紙の教会や紙のログハウスといった紙管による建築で名を馳せた人物ですが、その特色が随所に見られます。中庭側の柱は紙管となっており、エントランス右手の相談室の壁は紙管を組み合わせ、レンガの目地の様にして壁を作り出しています。また、机や椅子といった家具にも紙が用いられており、子どもたちは見たことがない紙の建築、家具にびっくりするかもしれません。
所在:福島県相馬市中村二丁目2-15